不動産を購入する際の交渉において

売り手と交渉が噛み合わない…
買い手の希望が軽視される…
といったジレンマを持つ方もいらっしゃるのではないでしょうか。
不動産は大きな買い物なので、交渉結果によっては人生を左右するほどの影響が出ることもあります。
交渉というとタフネゴシエーターを気取って、相手のどんな提案にも頑として応じず、自分の主張を曲げず、ひたすら相手が折れるのを待つ人もいますが、自分が有利な状況以外では、交渉が破談になるだけではなく、関係者の顔を潰す結果にもなりかねません。あくまでも状況次第で戦略を組み立てる必要があります。
本記事では、不動産売買を有利に進めるための3つの”J”「状況分析」「譲歩」「情」を用いた交渉戦略について解説します。
なお、本記事は不動産売買交渉戦略について取扱いますが、交渉は売り手側が買い手を冷やかしではないちゃんとした買い手候補と認識した上で行われますので、その前段階の売り手へのファーストコンタクトのコツについては別記事を参照ください。
不動産売買交渉における3つの”J”
1つめのJ「状況分析」
状況分析で見極めることは主に3点です。
売り手と買い手の交渉力

売り手と買い手のどちらが有利な立場かを見極めます。
交渉に入る前なのでまだ有利不利はないのではないかと思うかもしれませんが多くの場合はそうではありません。
例えば、
- 物件が魅力的で他に買い手候補がいる
- 似た条件の物件は売りに出されておらず物件に希少性がある
- 売り手が時間と金銭に余裕がある
すると売り手が有利です。
逆に、
- 他に買い手の候補はいなく、なかなか現れそうではない
- 似た条件の物件が販売されている
- 売り手が時間と金銭に余裕がなく売り急いでいる
となると買い手が有利です。
実は、交渉が始まった時点で、売り手と買い手の交渉力にはすでに差が付いているものです。
お互いがどのような状態にあるかを把握しながら、それぞれの交渉力を推し量るのです。
売り手のこだわり
不動産売買交渉は普通は短期間で(場合によっては交渉というほどのものがないうちに)結論が出るので、ほとんどの場合は、交渉力の通り(もしくは当初の販売条件のまま)の結果となります。
買い手がより有利な条件を引き出すためには交渉材料を見つけなければなりません。そのためには売り手のこだわりを把握すべきです。
一般的に売り手には下記のようなこだわりがあります。
- 高く売りたい
- 早く売りたい
- 物件を評価してほしい
- 体面を保ちたい(お金に困って売却したと思われたくない、親族から売却したことを非難されたくない、etc.)
売り手により異なりますので、その売り手にとってのこだわりが何かを探ります。
交渉において、売り手のこだわりを満たせば、その代わりに他の条件は譲歩してくれるかもしれません。
仲介者のインセンティブ
本来は仲介者(不動産仲介会社)の都合で売買条件が変動するのはプロとして好ましいことではありませんが、現実的には取引に大きな影響を与えているケースが多いのは事実です。
仲介者のインセンティブは取引形態により大別されます。
仲介者が一社で売り手と買い手の双方を担当する場合
- 利益の大きい両手取引なので、希望条件に多少の乖離があっても何とか取引をまとめたい
- 売り手に対する思い入れが強いので、売り手に対してはギリギリの交渉を避ける傾向がある
仲介者が売り手と買い手それぞれに合計2社以上かかわる場合
- 買い手専属の仲介者なので買い手の要求にコミットしてくれやすい
- 売り手側の仲介者と買い手側の仲介者の温度差が生じやすい
ただし、上記は一般的な傾向であり、仲介者により異なります。
売り手のこだわりを把握し交渉材料を見つけても、実際に売り手とやり取りするのは仲介者であり、その交渉が仲介者のインセンティブに反するとなかなか期待する動きをしてくれません。仲介者と協力関係を強める上では仲介者の事情も把握する必要があります。
2つめのJ「譲歩」

状況分析によって交渉の趨勢を予測できますが、それをなるべく自分に有利にする交渉カードが「譲歩」です。
買い手が譲歩することによって、売り手の譲歩も引き出すのです。
最適な譲歩とは、買い手にとって優先度が低い項目を譲歩し、その代わり、売り手にとっての優先順位は低いが買い手にとっては優先順位が高い項目を譲歩してもらうことです。
例えば、売り手がハウスクリーニングを実施して物件を引き渡す前提になっている時、買い手は物件購入後に大規模なリフォームを実施するなら、売り手にハウスクリーニングしてもらっても二度手間になるので、売り手のハウスクリーニングの負担をなくして、その分を値引きしてもらう、とか、
売り手がなるべく早く代金をほしいと望んでいるなら、即金で払う条件で値引きを要求したりです。
お互いにとって最適な譲歩を引き出すためにも事前の状況分析は不可欠です。状況分析なしで譲歩を提案しても的外れな提案となり、かえって売り手と買い手の溝が深まる可能性もあります。
また、状況分析の結果、お互いにとって最適な譲歩項目がない場合は、後に詰める細かい条件を先出してパッケージで提案すると、売り手や仲介者がパワーバランスを考え直したりして、結果的に売り手の譲歩を引き出せることがあります。
売買価格だけではなく契約時の手付金の額、代金支払いの時期、物件引渡しの状態、境界確定の有無、越境がある場合の取り扱い、売主の物件保証義務の有無や、保証有の場合の期間等をまとめて提案するのです。
交渉期間の短縮にもなりますし、後から後から論点が出て不毛な交渉になることも防げます。
3つめのJ「情」
取引関係者がすべて合理的な選択をするのであれば、交渉はそれぞれの交渉力と交渉カードによって結論に達しますが、実際にはそのようなことは稀で、感情や偶然に大きく左右されます。
なので、交渉カードが特にない場合でも、売り手に失礼にならないように配慮をした上で、買い手の希望を伝えてみるべきでしょう。特に売り手が買い手に対し好意を持っている場合は譲歩を引き出せることが多々あります。
そのためにも買い手は誠意と熱意のある対応が欠かせませんし、状況が許せば交渉前に会って挨拶をしておくと効果的だったりします。
(ただし、その場では値引き交渉や物件についてのダメ出しを行うのは推奨しません)
逆に、買い手が有利な状況で、売り手を交渉でガンガンに追い詰めると、売り手が態度を豹変させて物件の売却自体を取りやめることもありますので注意が必要です。
情も立派な交渉カードです。売り手に花を持たせ、買い手は実(ジツ)を取るのです。もちろん見え見えで恩着せがましいのはダメですが。
買い手は顧客であり、サービスの受け手であることは確かですが、買い手だから関係者に最大限尊重され、しかも価格も値引きしてもらって当たり前みたいな顔をするのは得策ではありません。売り手や仲介者を尊重して相手を気持ち良くさせた方が、買い手にとって有利な結果がもたらされやすいです。
まとめ 交渉戦略のポイント そして、交渉の勝ち負けにこだわりすぎてはいけない

不動産売買を有利に進めるための交渉戦略のポイント

- 交渉力、売り手のこだわり、仲介者のインセンティブをよくよく状況分析する
- 最も効果的なお互いの譲歩ポイントを探り提案する
- 売り手の情に訴える

これらを踏まえて、相手を尊重しながら、熱意を持って対応すれば、少なくとも相手を怒らせることはありませんし、取引自体もスムーズに進むでしょう。
ただし、
買い手が交渉カードを駆使しても売り手の交渉力が強ければほとんど効果がなかったり、
本来はもっと交渉できるところを仲介者がボトルネックとなったり、
売り手が交渉力が高くないのにかかわらず頑として動じない(売り手がタフネゴシエーターを気取っている)
ということもあります。
相手があり、相手も本気ならそう簡単に有利な条件を勝ち取れないでしょう。条件交渉はどちらが有利になれば、相手が不利になるゼロサムゲームで、どちらかが勝とうとすればどちらかが負けで、誰しもが条件が不利になり気持ちも敗北感にまみれるのを必死になって避けようとし、意地の張り合いに陥りがちです。
しかし、もっと大枠で見れば、売り手は売りたい、買い手は買いたい、大筋の利害は一致しており、意見の相違はむしろ全体のごく一部です。1億の売却希望に1千万とかの購入希望額をぶつけている訳ではないのでしょうから。
なので、物件を購入して利用する全体プロジェクトが本当に自分の目的にかなっているかという本質にはとことんこだわるべきですが、契約条件の細部や交渉の勝ち負けにこだわり過ぎないことが実は重要だったりします。

売買交渉がスムーズに行かないという方は、細部や勝ち負けにこだわり過ぎて対決姿勢になっていないかも見つめ直してみるべきでしょう




