不動産を購入しようと不動産会社に問い合わせをしているものの「なかなか良い物件が買えない」「不動産会社とのやり取りがうまくいかない」と感じる方もいるのではないでしょうか。特に投資用不動産や人気条件の不動産を購入しようというケースではそのようなジレンマを抱えている方が多いようです。

不動産の購入は、一般の商品購入(量産品、汎用品)とは大きく異なり、そこを理解せず、買い手だからと上から目線で接すると、不動産会社や売り手から敬遠され、交渉のテーブルにすらつけないことがあります。

不動産購入は一般商品とは何が違うのか、どのような対応をすれば不動産会社や売り手から信頼を得られ、スムーズに購入の交渉に入れるのか解説します。

城下智生

不動産は一般商品とは異なるので、購入意欲があるのなら、買い手(お客様)であっても自分は選ばれる側という意識を持ち、特にファーストコンタクトの際は気を配るのがスムーズに商談に入るコツです

不動産購入は一般の商品購入と決定的に違う

違い1 一つの不動産の買い手は一人に絞られる

一般商品は全く同じ商品が量産され、しかもほとんどの場合は類似品が他のメーカーからも販売されています。

取引するかの決定権は買い手が握っていて、いつでも、好きなだけ買い手のペースで購入することができます。

対して不動産は同じものが2つとありません。類似条件の不動産が同時期に売りに出されていることはありますが、その量は一般商品とくらべるまでもありません。

取引における買い手と売り手の力関係は需要と供給で決まりますが、

買い手候補が複数出るような不動産であれば、取引での力関係はぐっと売り手側に傾きますし、

大して需要がない不人気物件であっても買い手は1人いればいいので、取引における力関係は一般商品ほどは買い手側に傾きにくいです。

違い2 買い手の資金的目処が取引の方向性を決める

一般商品の購入では売り手が買い手の資金を事前に確認することはありません。そんなことを確認するのは失礼だと思われますし、仮に買い手のクレジット決済ができなかったとしても、せいぜい店員がその買い手の応対に要した時間が無駄になる程度で大した問題ではありません。

しかし、不動産の場合、売買条件を詰めて契約書を作成したものの買い手のローンが通らなかったでは、その交渉期間なり、関係者の努力が水の泡ですし、その間に出たであろう他の買い手候補の機会損失が生じます。

ローンを利用する場合、ローンの可否は金融機関の判断となり、住宅ローンであれば勤続年数や年収に自己資金、投資用不動産であればそれに加えて事業計画詳細、投資経験の有無等も重要で、不動産会社なり売り手は、失礼を承知ながら、なるべく早い段階で買い手の資金的目処を確認したいと思っています。

ローンを利用するとなると、金融機関は買い手、売り手、不動産会社に次ぐ(場合によってはそれらを超える)主要取引関係者となり、書類や手続き方法、スケジュールは金融機関の要件に合わせなければならず、取引を実質的に主導することもあります。

違い3 取引には協力と配慮が不可欠

近頃はネットでポチれば翌日には商品が届く便利な世の中ですが、不動産取引はそんな簡単なものではありません。

取引条件には、売買価格以外にも、不動産に不具合があった場合の保証の有無や、土地の測量を行うかといったことまで含まれますし、物件の代金の支払い日時は、登記を行ったり、銀行が抵当権を設定する都合上、平日の日中に限定されます。

そういった細かい取り決めをするにも売り手と買い手の利害が対立することがありますし、代金の支払い日時は関係者全員の都合を合わせなければなりません。

買い手が、不動産は高額商品だから保証が付いて当たり前とか、お金を支払うのだからすべて自分の都合に合わせてもらえるという前提でいると条件交渉が不毛なやり取りとなり、頓挫しやすくなります。

不動産取引で交渉を妥結するために、買い手と売り手双方がお互いの事情を汲んだり尊重するリテラシーと人間性を有するかも重要な要素となり、取引関係者は買い手のそういった部分も注視しているのです。

違い4 売り手はプロではないことが多い

一般商品の売り手はほとんどがその販売を生業とする業者ですし、特にコモディティ商品においては大半が大手メーカーで占められています。

対して不動産の売り手は一般個人や不動産業以外の中小企業である割合が高いです。

売り手が不動産業者や大企業であれば、買い手に対して求めることは売り手が設定した売却価格を出せるかどうかですが、売り手が個人や中小企業の場合は、取引に応じるかは売り手の胸先三寸で決まります。

売り手が買い手のことを気に入れば多少価格が低くても取引に応じることもありますが、逆に買い手に対して悪い印象を持てば、買い手の価格が満額だったとしても取引が見送られることもあります。

  • 不動産会社から営業されたくないので、興味がなさそうにしたり、バリアを張ったり、または問い合わせの際に入力する買い手側の情報が著しく少ない
  • 有利な条件を引き出そうとするあまり、最初っから条件交渉をしてきたり、自分の考えや都合を押し付ける
  • 売り手が感情を持った人間であるという意識を持てず、必要以上に不動産をけなしたり、売り手に対し配慮がない言動をとる

一般商品であればこのような態度であっても、レジに行って代金決済すれば購入することはできますが、不動産の場合、人気条件である程、交渉のテーブルに着く前に足切りされてしまうことがあります。

スムーズに交渉のテーブルに付くためには

不動産は一般商品とは異なるので、買い手が自分は選ばれる側という意識を持ち、優先順位の高い買い手とみなされるようにファーストコンタクトの際に下記を伝えるべきです。

  • 冷やかしではなく購入を検討していること
  • ローンも含めた購入資金の準備状況、おおまかな社会属性
  • 不動産売買の経験の有無

これらを自らすすんで開示することで買い手側のリテラシーを示すことにもなります。

例えばこんな感じです。

こちらの物件が希望条件に近いので購入を前向きに検討したいと思っています。物件についての詳細情報やもし注意点等があれば教えていただけないでしょうか。なお、私は本業はサラリーマンですが、現時点で不動産投資物件を1つ持っていて、そちらはA銀行から融資を受けました。仮にこちらの物件を購入する場合も同様にA銀行に融資を打診する考えです

ローンの見通しがまだだったり、不動産売買未経験なら正直に伝えるべきでしょう。

人気物件だとそれで実際に優先順位が下がることはありますが、それは仕方がありません。嘘を付いたとていずれバレて信頼を失います。

もちろん売り手の条件を問答無用で丸飲みしろということではありません。交渉のテーブルに着いた後の交渉術はまた別の話です。こちらはまた別途解説させていただきたいと思います。

補足 不動産会社との付き合い方、断り方

本来は不動産会社は取引のプロなので、買い手が不動産と一般商品との違いを理解しないで至らない対応を取っても、不動産会社が、買い手から必要な情報を聞き出し、買い手をうまく誘導しながらそのポテンシャルを引き出すべきです。

ただし、残念ながらそのような素晴らしい対応をする不動産会社は決して多くありません。買い手がそのような素晴らしい不動産会社以外からでも不動産購入を進めたければ買い手自らがうまく立ち回る必要があります。

なお、このような至らない態度を取ってしまう買い手の言い分として、不動産会社の中には、買い手に対して失礼かつ迷惑な営業をしてくる者が多く、その対策として、バリアを張ったり、前のめりな態度を取らないようにしていると思います。

推奨する対応としては、ファーストコンタクトから、不動産の詳細を確認して、本当に欲しいか判断するまでは、自己開示しつつうまく立ち回り、もし購入しないと判断するならはっきりと断り、万が一その後も繰り返し連絡等をしてくるなら電話は着信拒否、メールはブロック、アポ無し訪問にはインターホンで遮断、それでもしつこければ警察通報と毅然と対応すべきです。

不動産会社は素晴らしくなくても不動産自体は良いということはありますので、そのときは不動産を購入するためと割り切って不動産会社とうまく付き合うべきです。ただし、素晴らしくないどころか劣悪な不動産会社もいるので、そのときはいくら物件が良くてもトラブルに巻き込まれないためには取引しないことを推奨します。